塔の話（後編）
前回に続き、塔の話を続けたいと思います。木造建築技術の中でも塔は最も高度な技術を必要とするものかもしれません。そのせいかもしれませんが、塔は非常に美しい建築です。日本建築の美しさは色々ありますが、水平線を強調するような日本建築にあっては、特別な美しさを塔は持っています。塔にも様々な形式があり、重要文化財指定の塔は木造だけでも９０ほどもありますが、国宝に限ってみても３０件を数えます。その内、三重塔は１３件、五重塔は１１件（五重小塔含む）ありますが、それ以外に多宝塔と呼ばれる形式のものが６件（大塔含む）あります。これは初層が方形、上層が円形の二重の塔で密教系の寺院に良く見られるものです。弘法大師空海が高野山に建てた根本大塔（現存のものは昭和の再建）がその走りとする説もあり、近畿を中心に広く分布しています。個人的にはとても好きな塔の形式で、各地の多宝塔を良く見て歩いております
以下に国宝指定の塔の内、個人的判断ですが、美しいと思っている塔又は非常に興味深い塔ベスト２０を紹介いたします。機会があったら是非ご覧頂きたいと思います。（順番はランキングではなく、北の方から順に並んでいるだけですので悪しからず。）
- ■羽黒山五重塔（山形県羽黒町）南北朝時代(1377年)
- 日本最北の国宝の塔。鬱蒼とした巨木の林の中に溶け込むように建つ。
- ■安楽寺八角三重塔（長野県塩田町別所温泉）南北朝時代
- 国宝では唯一の八角三重塔。禅宗様式。初層に裳腰が付くので四重に見える。
安楽寺八角三重塔
大法寺三重塔
- ■大法寺三重塔（長野県小県郡青木村）南北朝時代(1333年)
- 見返りの塔と称された美しい塔。軒反りが良い。安楽寺のある別所温泉に近い。
- ■明通寺三重塔（福井県小浜市）鎌倉時代(1270年)
- 本堂とともに国宝で、両者の位置関係が良い。雪の季節がお勧め。
- ■西明寺三重塔（滋賀県甲良町）鎌倉時代
- 織田信長の焼討ちを免れた塔。和様の典型。初層の内部を拝観できるのも嬉しい。
- ■石山寺多宝塔（滋賀県大津市）平安時代(1096年)
- 紫式部の伝説のある国宝本堂の裏に建つ。上層の締まったすっきりした多宝塔。
- ■教王護国寺(東寺)五重塔（京都市南区）江戸時代再建(1644年)
- 日本最高(51m)を誇る五重塔。新幹線からも良く見える。下から見上げると良い。
- ■醍醐寺五重塔（京都市伏見区）平安時代(951年)
- 古式で逓減率の大きな五重塔。華やかさを持つ姿が平安を彷彿とさせる。
- ■浄瑠璃寺(九体寺)三重塔（京都府加茂町）平安時代
- 極楽浄土を表した浄土庭園の中に本堂に対面して建つ。庭園越しの眺めが良い。
- ■興福寺五重塔（奈良市登大路町）室町時代(1426年)
- 室町時代に古式で再建された大型の五重塔。明治期に売却されそうになった。
- ■元興寺極楽坊五重小塔（奈良市中院町）奈良時代
- 同じく奈良市にある海竜王寺とともに現存する数少ない五重小塔。元は模型。
- ■薬師寺東塔(三重塔)（奈良市西ノ京町）奈良時代(730年)
- 凍れる音楽と絶賛された塔。各層に裳腰が回り、六重に見えるそのリズムが良い。
- ■法隆寺五重塔（奈良県斑鳩町）飛鳥時代。
- 御存知最古の木造建造物。逓減率が大きく安定した塔。細部に古式を見て取れる
- ■室生寺五重塔（奈良県宇陀郡室生村）奈良時代
- 五重塔では最小(15m)の塔。森の中に妖精のように建つ。台風で破損したが修理済み。
- ■当麻寺東塔＆西塔(ともに三重塔)（奈良県当麻町）奈良時代(東塔)平安時代(西塔)
- かつて塔が東西に建つ寺院は多かったが、当麻寺のように現存するのは珍しい。
- ■金剛三昧院多宝塔（和歌山県高野町高野山）鎌倉時代(1224年)
- 高野山の塔頭にある姿の良い多宝塔。個人的には最も美しい多宝塔と思う。
金剛三昧院多宝塔
根来寺大塔
- ■根来寺大塔（和歌山県岩出町）室町時代(1513年)
- 多宝塔を大きくした大塔形式では唯一の国宝。そのボリュームには圧倒される。
- ■明王院五重塔（広島県福山市）南北朝時代(1348年)
- 瀬戸内沿岸では数少ない五重塔。堂々とした姿は安定感とともに威厳が漂う。
- ■浄土寺多宝塔（広島県尾道市）鎌倉時代(1329年)
- 瀬戸内海を見下ろす高台に建つ多宝塔。本堂と併せて明るい雰囲気が漂う。
- ■瑠璃光寺五重塔（山口県山口市）室町時代(1442年)
- 池の辺に建つ瀟洒な五重塔。池に写る姿を含め個人的に最も美しい五重塔と思う。
瑠璃光寺五重塔
